FRSレポート⑫原発事故で放射性プルームが流れてきたら
2019年08月23日|REPORT
福島第一原発事故の後、再稼働した原子力発電所はあまりありませんが、
中国や東南アジア諸国では原子力発電所の建設が進められています。
③~⑤解明!汚染の流れでご紹介しましたが、
事故により環境に放出された放射性物質は、大気の移動により流れていきます。
もし、今後日本または海外の原子力発電所の事故により、
放射性プルームが流れてきた場合、どのように対応すればよいのでしょうか。
今回の福島第一原発からの放射性プルームの性質や挙動から考えてみましょう。
放射性プルームの組成
風の流れによって運ばれてきた放射能は、主に放射性ヨウ素と放射性セシウムです。
いずれもガス及び粉じんとしての特性を持つものでした。
これまで、セシウムは常温では粉じんとしての性質を示すと考えられていましたが、
事故直後に測定した結果からは、
ガスの性質を示すセシウムもかなりの割合を占めていることがわかりました。
放射性ヨウ素は、常温でもガス状になりやすい特性を持っています。
プルームの挙動と特性
放射性プルームが地上表面を流れた場合、
ガス状ですので、家に隙間があると容易に入り込みます。
農業用ハウス内のほうれん草が汚染されたのもそのためです。
また、これらは水に溶けやすいという特性も持っています。
室内にあったコップの水から放射能が検出されたという話もありました。
すなわち、放射性プルームが上空高く流れたとしても、
雨が降ると、雨に溶けて地上に降ってくるということです。
これにより、広範囲における地表面の汚染が拡大したのです。
被ばくへの影響
放射性プルームに覆われてしまったら、放射線量が上昇しますので、
外部被ばくをすることになります。
雨が降らなければ、時間とともに放射性プルームは流れていきますので、
線量は下がります。
しかし雨が降り、地表面が汚染されると、長期間放射線にさらされることになります。
また、呼吸によって吸い込んだり、汚染した食品を食べたりすると、
放射性物質と体内に取り込むことになります。
事故直後の放射能で最も警戒しなければならないのは、放射性ヨウ素です。
呼吸によって容易に体内に取り込まれますし、
わずか100g程度の甲状腺という臓器に集積します。
放射能が集中するということは、その臓器のみが極端に被ばくすることになります。
セシウムの場合は、筋肉全体に広がりますので被ばくも分散します。
ヨウ素剤というのをお聞きになったことがあると思いますが、
放射性ヨウ素が取り込まれる前に、放射性でない安定したヨウ素を摂取することにより、
甲状腺に放射性ヨウ素が入り込む余地をなくしておく効果を期待したものです。
日本人の場合、海藻をよく食べるので、
甲状腺には安定ヨウ素が十分あるという情報もあります。
チェルノブイリ原発での事故後、長期間にわたって健康被害が確認されているのは、
子供が甲状腺被ばくした結果、甲状腺がんを発症割合が増えていることです。
小さな子供ほど、甲状腺がんの発病リスクが高いといわれています。
できるだけ、特に放射性ヨウ素を体内に取り込まないことがポイントとなります。
放射性プルームが流れてきたらどうする
事故が発生したら、放射性プルームが流れてこないところに避難するのが一番です。
今回の福島第一原発事故の際は、
私は奥羽山脈を越えて日本海側に避難すれば大丈夫と答えていました。
しかし、気象に関する適切な情報が与えられなければ、判断は難しいでしょう。
離れた原発から放射性プルームが流れてきた場合どう対応できるか、
いくつかのケースで考えてみましょう。
(1)家の中では
安易に外に出ることはオススメしません。できるだけ家の中にいて、
外の空気が入ってこないような対策をします。隙間をテープ等でふさぎましょう。
今回の事故のケースでは、換気扇の開口部から室内にガスが侵入した痕跡がみられました。
家の中心部分に滞在し、濡らしたマスクまたは、濡らしたタオルで顔を覆います。
家に入ってくるとしたらガス状です。水に溶けやすい性質を利用しましょう。
(2)外から帰宅した場合
放射性プルームが上空にあり、その時雨が降ってくると、
放射能で汚染された雨になります。
その雨にあたり身体が濡れると、身体が汚染されることになります。
まず、風呂桶などにきれいな水を確保しておきましょう。
外から家族などが帰ってきたら、服を着替え、身体を洗うことが賢明です。
今回の事故では地震で断水、停電になりましたから、
日ごろから水を確保しておくことが必要です。
(3)避難するかどうか
事故現場にそれほど近くない場合、慌てて避難する必要はありません。
放射性プルームが流れ去るまで待ちましょう。
放射線による被ばくリスクと、避難によるリスクを冷静に判断する必要があります。
今回の事故では、入院患者を避難のために連れ回した結果、
多くの人が死に至るという結果を招きました。
(4)その後気を付けたいこと
放射性プルームが通り過ぎたら、汚染した野菜や水を体内に取り込まないことです。
事故直後汚染した野菜を水洗いしてみましたが、汚染は約半分にしかなりませんでした。
十分な濃度の塩水でゆで上げた結果では、5分の1まで下がりました。
市の水道は断水していましたが、地下水からは汚染は検出されませんでした。
しかし、雨水タンクにはかなりの濃度の汚染水がたまっていました。
雨で汚染した地域では、いくらか放射性ヨウ素が空気中に確認されましたが、
時間とともに無くなっていきました。
日頃からの水、食料の備蓄に気を配ることが大切です。
下記のテキストをクリックして下さい、記事のページが開きます。
①あなたの身近な放射線。放射線量ってなに?
②あなたの身近な放射線。
③汚染の流れ こうして汚染は広がった! 2011年3月12日
④汚染の流れ こうして汚染は広がった! 2011年3月13〜14日
⑤汚染の流れ こうして汚染は広がった! 2011年3月15日
⑥汚染はこの後どうなるの?
⑦〇〇が守った!なぜ福島の農作物から、汚染が出ないのか?
⑧汚染の出る可能性がある注意したい食品について
⑨知っておきたい放射線のリスク 多量に浴びた時
⑩知っておきたい放射線のリスク 低線量の時の影響
⑪知っていますか 内部被ばくと外部被ばく
⑫放射線プルームが流れてきたら
⑬安全と言われても、安心はできないワケ
⑭リスクのトレードオフ
⑮日本酒の放射線防護効果